その日、
特別なことは何もなかった。
ただ、
少しだけ違う景色が見たかった。
気がつけば、
淡路島へ向かっていた。
旅というほど遠くない。
でも日常からは少し離れている。
淡路島はそんな場所だ。
明石海峡大橋を渡る。
窓の向こうに海が広がる。
神戸の街並みが少しずつ遠ざかっていく。
それだけなのに、
どこか違う場所へ来たような気持ちになる。
淡路島へ着いても、
特に予定は決めていなかった。
海沿いを走る。
気になった場所で車を止める。
好きな音楽を流す。
窓を少し開ける。
潮風が入ってくる。
それだけで十分だった。
旅に出る理由なんて、
いつも明確なわけじゃない。
行きたい場所がある日もあれば、
ただ車を走らせたくなる日もある。
淡路島は、
そんな気分の日によく似合う。
海沿いを走りながら、
伊弉諾神宮へ立ち寄った。
何かをお願いしたかったわけじゃない。
ただ、
少し静かな場所へ行きたかった。
境内を歩く。
木々が揺れる音。
砂利を踏む音。
ゆっくり流れる時間。
神社が好きなのは、
ご利益が欲しいからじゃない。
その場所に流れる空気が好きだからだと思う。
御朱印をいただく。
またひとつ増えた。
集めているというより、
その日にその場所へいた記録なのかもしれない。
気がつけば夕方になっていた。
最後にサンセットビーチへ向かう。
海の向こうに太陽がゆっくり沈んでいく。
空の色が変わる。
海の色も変わる。
波の音だけが静かに聞こえる。
何か特別なことが起きるわけじゃない。
でも、
その時間が好きだった。
夕日が沈み始める頃、
ふと海の向こうを見る。
そこには神戸の街が見えた。
夜になると、
街の灯りが少しずつ増えていく。
ビルの明かり。
車のライト。
観覧車の光。
いつも過ごしている街。
明日になれば、
またあの場所へ戻る。
神戸はすぐそこにある。
橋を渡れば帰れる距離だ。
それなのに、
なぜか帰りたくなかった。
理由は分からない。
ただ、
海を眺めながら過ごす時間が心地良かった。
波の音を聞いているだけで良かった。
向こうに見える神戸の灯りを眺めているだけで良かった。
旅が好きなのは、
遠くへ行けるからじゃないのかもしれない。
日常を忘れるためでもない。
少しだけ景色を変えるため。
少しだけ違う空気を吸うため。
少しだけ立ち止まるため。
淡路島から見た神戸の灯りは、
そんなことを思い出させてくれた。
完全に暗くなった海を眺める。
神戸の灯りだけが静かに浮かんでいる。
帰ろうと思えば帰れる。
でも、
もう少しだけここにいたかった。
また来ようと思った。
理由はきっとその時にならないと分からない。
でも、
少しだけ違う景色が見たくなったら。
また淡路島へ来る気がする。
その時もきっと、
サンセットビーチで神戸の灯りを眺めている。


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